1.住民サービスは低下するのか

今回の住民投票は、大阪都心部への特別区設置の賛否を決するものですが、その趣旨は、住民自治の拡充に加え、広域行政の一元化という大都市政策に係る事項が大きな位置を占めています。しかしながら、投票日が今週末に迫る中で、有権者の関心がどうしても住民サービスに傾斜しているように感じます。

もちろん、特別区における住民サービスの在り方も論点の一つかもしれませんが、橋下代表が再三強調しているように、政令市制度から都区制度に移行したからといって、住民サービスが急に充実したり突然低下したりすることなど絶対にありません。本体が大阪市役所から特別区役所に移行するだけで、その出先機関としての窓口(現在の行政区役所)は維持されますし、必要な税源は特別区に引き継がれるからです。

仮に、近い将来、大阪の住民サービスを維持できないような事態が起こり得るとすれば、
 1)特別区長に無能な政治家を選んだ場合(選挙リスク)
 2)大阪の経済が停滞し税収が落ち込んだ場合(経済リスク)
 3)国が社会保障等の負担と給付を見直した場合(政策リスク)
のいずれかであり、いずれも特別区の設置とは関係がありません。1)の選挙リスクについては大阪市のままでも全く同じことが言えますし、2)については、逆に、そうした経済リスクを顕在化させないための取り組みこそ大阪都構想であり、3)は国政の話ですから直接の関係はありません。

つまり、大阪都構想によって住民サービスは、維持・強化されることはあっても低下することは無いのです。

 

2.フリーアクセスの終焉

近い将来、大阪の住民サービスを維持できないような事態が起こり得る3つのリスクのうち、最後に掲げた政策リスクについては、大阪だけではなく全ての都市、地域、自治体が被るリスクですので「直接の関係はない」と述べましたが、間接的には極めて甚大な影響があり、大事な問題ですので、少し補足をしておきたいと存じます。

少子高齢化が日本の経済社会に与える大きなインパクトについては、西田亮介氏の「「2015年体制」と「潮止まり」の政治状況」にも紹介されている通りであり、極めて深刻な状況です。医療、介護、福祉、教育、子育てといった住民サービスへのニーズは膨張する一方であり、それに充当する財源には限界があるからです。いくら消費増税をしても社会保険料率は下がるどころか上がり続けている通りです。

そうした中で、すべての国民がすべての公共サービスを条件なく無制限に享受できる仕組み(フリーアクセス)はすでに終焉を迎えつつあり、今後は、どのサービスを我慢しどのサービスを充実していくのか、政策の優先順位を地域ごとに住民自らが決めていく必要があるのです。政府は、正式には認めていませんが、昨年の国会で介護保険の要支援が市町村に移管されたり、今国会で医療保険の一義的責任が市町村から都道府県に移管されたりしているのは、まさに、そういう状況にあるからなのです。

今回の住民投票において、あえて政令市を再編し適正規模の基礎自治体(=特別区)を設置しようと私たちが提案しているのは、まさに、そうした厳しい少子高齢化時代においても、住民の皆様が望むサービスを丁寧に調整し、きめ細かく提供していくためなのです。

安倍総理や菅官房長官はじめ官邸が、比較的(自民党大阪府連に比較して、)都構想にシンパシーを表明して下さっているのは、橋下代表が好きだとか、松井知事と長い付き合いだからとか、憲法改正を実現したいからといった、巷でよく言われている理由ではなく、むしろ、社会保障や財政に係る厳しい現状を誰よりも深く理解しているのが官邸であり、大阪の経済成長を誰よりも願っているのも官邸だからなのです。

そうした意味で、自民党大阪府連や公明党大阪府本部の国会議員が共産党と一緒になって都構想に反対しているのは、奇異に感じます。責任のある政権政党であれば、改革の実現に向けて有権者の判断を支援・支持するのが当然であり、国会に身を置く政治家の責任だと思うのです。

 

3.住民投票に際して確認しておきたい一枚の地図

さて、前置きが長くなってしまいましたが、ここからが本題です。以上のように、基礎自治体が担当する住民サービスは、大阪都構想によって、維持・強化されることはあっても低下することはありません。

にもかかわらず、全国に数ある都市の先頭を切って、大阪において都区制度の導入が俎上にあがった理由は、住民サービスというより、むしろ、「府市合わせ(不幸せ)」という言葉で長年議論されてきた大阪府市の二重行政・二元行政であり大阪の大都市政策だったのです。

そのことを感覚的に理解いただくには、この一枚の地図をご覧いただくのが一番分かりやすいと思います。

都市雇用圏

 

この地図は、私がかつて勤務していた経済産業省が地域経済分析のために作成したものです。それぞれのカラーで描かれているエリアは、いわゆる行政区域ではなく、通勤等で人の行き来が多いエリアを「都市雇用圏」と呼んで整理をしたものです。(こうした分析の最初のものは「人材ニーズ調査」参照)

これによれば、日本には1718の市町村が存在しますが、都市(圏)といえるものは233あり、これらの都市に日本の総人口の95%が住んでいることになります。

 

4.日本のメトロポリスは東京と大阪だけ

特に私が強調したいのは、233の都市圏の中で、いわゆる広域行政を担っている都道府県の行政区域を丸ごと飲み込んでいる「大都市(メトロポリス)」は、東京と大阪の二極だけだということです。

私は、名古屋が大都市に当たらないとは言いません。しかし、名古屋都市圏は、愛知県という広域行政体の西半分しかカバーしておらず、メトロポリスには必ずしも該当しないのです。しかしながら同時に、名古屋都市圏にも一定の広がりがありますから、その名古屋都市圏の都市行政を(愛知県とも連携しながら)強力に遂行するための広域行政体として、(愛知県とは別の)政令指定都市「名古屋市」が置かれているわけであり、これには一定の合理性があると考えることができます。(以下の図はうらしま氏作成)

コラム

しかしながら、大阪府域を超えて兵庫や奈良等にも大きく拡がっている大阪都市圏および関東平野に広がる東京都市圏という2つの「大都市(=メトロポリス)」にあっては、広域行政体である大阪府や東京都の中にもう一つの広域行政体=政令指定都市(特に都道府県に対抗するような政令指定市)を維持する合理的理由は全くないのです。

木島洋嗣氏の記事「大阪は世界のハブ都市になれるか」にもある通り、大阪都市圏は、その総生産額ベースで世界7位の大都市であり、アジアそして世界のハブとして、成長していくことが可能であるし、成長していく責任があると思うのです。

都市別総生産額

 

5.藤井教授こそ論外

本稿の副題に、「都構想を論外と切り捨てる藤井教授こそ論外」と書きましたが、京都大学の後輩である藤井聡君は、学者を装いつつ、都構想反対派のリーダーの一人として、活発に政治活動を展開してきました。その活動の端緒となった「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」の第一番目には、

今回の住民投票で決まっても,「大阪都」にはなりません.

とあるのです。なんと矮小な、なんと扇動的な表現でしょうか。大都市地域特別区設置法に「都とみなす」と書いてある等と反論するまでもなく、本稿を読んで下さった読者の皆様には、藤井君の都市に関する言説が、如何に相手にするに足らない、つまらない言説であるかをご理解いただけるものと存じます。

「大阪都」については、首都ではないから僭越だ、といった批判も(特に国会で)ありましたが、首都を意味するのは「京」であり、「都」ではありません。だから、東京は東の「京」であり、北京は北の「京」なのです。「都」は、まさに「大都市(メトロポリス)」を意味するのです。法律的には、「都」は府と市を再編し特別区を設置した場合の行政制度のことであり、住民投票で決すれば、「大阪府」は自動的に(すべての法律の適用において)「都とみなされる」のです。呼称自体は、法律改正すれば、それで済む話です。

藤井教授は、今週末の住民投票を前に「都構想」は大阪の衰退を決定づける“論外の代物”と題する小論を公開されていますが、私に言わせれば、大阪府知事、大阪市長を歴任し、実務を担った経験も踏まえて大阪維新の会が考え抜いた上で提案している「大阪都構想」を「論外」と切り捨てる、これから主権者である住民の皆様が賛否を決しようとしている「大阪都構想」を、その只中にあって「論外」と切り捨てる、その藤井教授こそ「論外である」、最後にそう指摘しておきたいと存じます。

 

6.母なる都市メトロポリス

メトロポリス(大都市)の語源は、母(meter)なる都市(polis)だそうです。つまり、大阪市や東京23区(かつての東京市)に存する企業や大学、そして誰よりも、長年にわたり地域を支えてきて下さった住民の皆様こそ、大都市圏の都心部を支えて下さっている母(meter)であり、今後も、大都市圏の全体を育み、その成長を牽引していただきたい、そう願っています。

今回の住民投票は、大阪市内に住民票がある有権者しか投票ができません。投票というのは、権利でもありますが、責任でもあります。

「未来への責任。」

大阪市民の皆様には、「母なる都市」の住民として、その責任の重さに改めて思いを馳せていただき、貴重な一票を行使いただければ幸甚です。