住民投票の前に知っておくべき3つの事実 ― 反都構想に躍起になる京都大学の最後の抵抗 ―
1.死活的に重要なマスコミの役割
大阪都構想の住民投票も今日で告示から10日となり、ちょうど折り返し点を迎えようとしています。大阪市内ではゴールデンウィークも休みなしで賛成/反対運動が活発化していますが、デマも含めて情報が飛び交い錯綜し、戸惑う有権者も少なくないようです。
本来、そうした膨大な情報の中から有権者の判断に資する情報を選び出して、選挙の公正性を高めていくのがマスコミの役割ですが、残念なことに、政令指定市一般や大阪都構想に関する基礎的なファクトも押さえずに、賛成派/反対派の主張を左から右に垂れ流している報道機関が少なくないように感じます。
本稿では、事例として、私が「もったいないな」と思う報道記事を3つ取り上げ、私が記者であれば、こうした切り口で整理する、こうしたファクトぐらいは押さえた上で記事にする、そう思うところを、僭越ながらご紹介し、大阪の有権者の皆様のご判断に資することを期したいと存じます。
2.大阪都構想に関する報道と3つの事実
1)決戦の大阪 党幹部ら続々来阪 都構想めぐり週末論戦
自民党府連の竹本直一会長…「大阪市を廃止し大阪市の格を下げるだけで何らいいことはない」…民主党は、辻元清美政調会長代理…「(都構想がどんな制度か)大阪の人はほとんど分からないのに維新は勝手に進めようとして…」…
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【事実1】:共産党を除く国政政党は大都市法の提案理由に賛成
この記事は、住民投票の前哨戦たる統一地方選挙に係る報道ですが、あたかも維新以外の国政政党が大阪都構想に反対しているかのような印象を与えます。しかし、そもそも自民党や公明党、民主党の国会議員に、都構想に反対する資格がないことは、既に「「大阪都構想」に反対する既存政党に道理なし」で詳述した通りです。
大阪都構想の根拠法である大都市法は自民党や民主党を含む与野党7会派が共同提出する形で可決成立したのであり、竹本府連会長や辻元議員のように国会で大阪都構想を念頭に置いた法律案に賛成した国会議員が地元大阪では反対するというのは、明らかに矛盾しており、そのチグハグな言動を、マスコミはしっかり追及するべきなのです。
もちろん、大都市法は大阪だけを対象にした法律ではありません。しかし、大都市法が道を開いた都区制度に大阪は相応しくないというのであれば、他にどの都市が都区制度に相応しいのか、竹本会長や辻元議員には説明責任があると思うのです。そうでなければ、立法事実なき法律案に賛成した、という国会議員として有るまじき謗りを免れることはできないのです。
※参考 大都市地域特別区設置法の提案理由(抜粋)
“現行地方自治法は、大都市制度に関し、特別区制度や指定都市制度等を定めておりますが、特別区制度は東京都に限られており、指定都市制度につきましては、道府県との二重行政の弊害や住民の声が行政に届きにくい等の指摘もあり…”
2)市の廃止・分割構想は大阪だけ 全国19政令市長回答
二重行政の最も有効な解消策を聞いた質問でも、政令市の権限を強化する「特別自治市」と答えた市長15人に対し、廃止・分割はゼロで、市の権限強化を目指す動きが主流…
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【事実2】:橋下市長以外は自らの権限拡大を志向する首長ばかり
アンケートの対象は政令市長ですから、記事は単に、自らの権限拡大を志向する首長ばかりである、ということを改めて紹介しているに過ぎません。他方、道府県の知事に質問すれば、真逆の結果になったでしょう。むしろ、橋下市長や維新の大阪市議がなぜ、自らのポストを廃止してまで都構想を実現したいのか、という一番大事な肝の部分、大阪という大都市の特殊性をあぶり出す、そうした報道をお願いしたいものです。
もちろん、政令市の権限を強化するための(記事で紹介されている)「特別自治市」のような制度がフィットする都市もあるでしょう。確かに(昔の大阪市のように)政令市域がその都市圏にほぼ一致する場合には、自立的な市政運営のため、すべての地方税を一元的に賦課徴収するという提案にも一理あります。
しかし、そうした都市は、全国を見渡しても、(私見ですが、)札幌市や広島市など一部に限られます。大阪の都市圏はすでに大阪府域まで拡大しており、現在の大阪市域を前提に「特別自治市」を導入すれば、大阪府との二重行政・二元行政は今よりも悪化になり、事態が悪化することが避けられないのです。
3)反「大阪都構想」研究者が会見 防災、経済政策取り組み不足
河田恵昭関西大教授は、都構想の議論を優先した結果、大阪市の防災、減災対策が後回しになっていると指摘。「最大の行政サービスは安心安全なのに、東日本大震災の教訓も生かされていない」と批判…
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【事実3】:都制や特別区に適用されている災害対策基本法の枠組みに問題なし
本件については、橋下代表が既にツイッターを通して反論していますが、既に、三年前の大都市法案の国会審議において、以下のように言及されています。(衆議院議事録から抜粋)
(質問者)“大阪都構想は災害対応ができるのか、ここが重要なポイントなんです。市一つじゃなくて、八つの区と府、それぞれに災害対策本部ができた場合に、権限が錯綜し混乱してしまうリスクがあるんじゃないか。また、区では権限が弱いんじゃないか”
(提出者)“現在の東京都及び特別区に適用されている災害対策基本法の枠組みを前提とするということであれば、今委員おっしゃったような、区では権限が弱い、そういった御懸念というのは必ずしも当たらないのではないかなというふうに考えております”
大都市法案の提出者がいみじくも答弁している通り、現在の東京都及び特別区に適用されている災害対策基本法の枠組みに問題はないのだから、大阪都構想にも問題があろうはずがないのです。
一方の大阪府市については、「僕(橋下代表)が市長に就任してやっと区ごとの防災対策をまとめさせたが、それまで大阪市には区ごとの住民向けの防災対策がなかった」(橋下代表のツイート)のですから、比較するまでもありませんが、河田教授には、東京都と特別区の防災対策の実務を勉強し直して、政令市制度と都区制度とのどちらに優位性があるのか、客観的に分析していただきたいと存じます。
3.反都構想に躍起になる京都大学の最後の抵抗?
ちなみに、事実3で取り上げた河田恵昭教授は関西大学の所属ですが、京都大学土木工学科の出身であり、藤井教授の先輩、太田昭宏国土交通大臣とは同期に当たります。
京都大学と言えば、大阪市は伝統的に大阪府より給料も高く“格上”に位置付けられてきたため、大阪市には京都大学の学閥が強く、大阪府には大阪大学の学閥が強い、という大学間の序列があると仄聞したことがあります。
つまり、藤井教授や河田教授は、京都大学土木工学科が大阪市役所に営々と築いてきた既得権を、その既得権益の塊をゼロベースで見直そうとしている橋下代表が憎くて仕方がない、大阪都構想が許せない、そう理解すれば、昨日の藤井教授とゆかいな仲間たちによる会見(動画、HP)の不自然さに得心がいくというものです。
仮にも、天下の京都大学の教授陣、こうした下世話な理由で活動されていることはないと承知していますが、引き続き学者を装うのであれば、太田国交大臣の名誉のためにも、改めて、(政治活動ではなく)学問的な分析をしっかり行った上で意見表明いただきたい、そう切に希望する次第です。